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東京地方裁判所 昭和41年(ワ)6604号 判決 1980年10月09日

主文

一  昭和四一年(ワ)第六六〇四号・第一一八○二号各事件原告(昭和五二年(ワ)第七〇八号事件被告)の請求をいずれも棄却する。

二  昭和五二年(ワ)第七〇八号事件被告(昭和四一年(ワ)第六六〇四号、第一一八○二号事件原告)は昭和五二年(ワ)第七〇八号事件原告ら(昭和四一年(ワ)第六六〇四号、第一一八○二号各事件被告ら)に対し、別紙物件目録(一)記載の土地及び同目録(三)記載の物件を明渡し、かつ昭和五二年二月四日から昭和五三年一二月三一日まで一ケ月金六六七四円、昭和五四年一月一日から右土地明渡済みまで一ケ月金七六二八円の各割合による金員を支払え。

三  昭和五二年(ワ)第七〇八号事件被告(昭和四一年(ワ)第六六〇四号、第一一八○二号各事件原告)は昭和五二年(ワ)第七〇八号事件原告(昭和四一年(ワ)第六六〇四号、第一一八○二号各事件被告)久保井浜子に対し、別紙物件目録(二)記載の土地を明渡し、昭和五二年二月四日から昭和五三年一二月三一日まで一ケ月金四一六五円、昭和五四年一月一日から右明渡済みまで一ケ月金四七六〇円の各割合による金員を支払え。

四  訴訟費用は各事件を通じ昭和四一年(ワ)第六六〇四号、第一一八○二号各事件原告(昭和五二年(ワ)第七〇八号事件被告)の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

(原告)

一  第六六〇四号事件について

1 被告らから訴外高橋快衛に対する大森簡易裁判所昭和三六年(ハ)第三五〇号建物収去土地明渡請求事件の執行力ある正本に基づく別紙目録(一)、(二)記載の各土地及び同目録(三)記載の物件に対する強制執行はこれを許さない。

2 訴訟費用は被告らの負担とする。

二  第一一八〇二号事件について

1 被告らは原告に対し、原告が同目録(一)記載の土地について通行権を有することを確認し右土地上に障害物を設置したり、その他原告の通行を妨害してはならない。

2 訴訟費用は被告らの負担とする。

三  第七〇八号事件について

1 被告らの請求を棄却する。

2 訴訟費用は被告らの負担とする。

(被告ら)

一  第六六〇四号、第一一八○二号各事件について

主文第一及び第四項と同旨。

二  第七〇八号事件について

1 主文第二ないし第四項と同旨。

2 仮執行の宣言。

第二  当事者の主張

(原告の昭和四一年(ワ)第六六〇四号事件及び第一一八○二号事件の各請求原因)

一  原告は、昭和三五年九月二九日、訴外高橋快衛から、別紙物件目録(一)及び(二)記載の各土地(以下本件(一)、(二)土地という。)に隣接する東京都大田区南馬込四丁目一五一〇番二宅地七八・〇一坪(以下原告所有地という。)を買い受け、原告所有地上に居宅を建築し、居住するようになった。

二  ところで、本件(一)土地は被告らが共有しており、本件(二)土地は被告浜子が所有しているが、原告は、原告所有地取得当時から、原告所有地から公道に出るための通路として本件(一)土地を通行し、別紙物件目録(三)記載の物件(以下本件物件という。)を使用していたところ、被告らは、突然、昭和四一年四月二九日、原告になんらの連絡もなく、本件(一)土地と原告所有地及び公道との各境界に、高さ約二メートルの有刺鉄線を張ったバリケードを設置し、原告の通行を全く遮断してしまった。

三  その後、原告は、昭和四一年七月二〇日、当庁から仮処分決定を得て、右バリケードを除去したが、被告らは、高橋快衛に対する大森簡易裁判所昭和三六年(ハ)第三五〇号建物収去土地明渡請求事件の判決の執行力ある正本(以下本件債務名義という。)に基づき、同年六月二二日、本件物件を収去して本件(一)、(二)土地を明渡す旨の強制執行をなさんとしたことがある。

四  しかしながら、原告は本件土地及び本件物件について次のとおりの権利を有している。

1  袋地通行権

(一) 原告所有地が北側に接する東京都大田区南馬込四丁目一五一〇番五宅地二二七・五三平方メートルは訴外益子昇の、北西側に接する同所四丁目一五一一番六宅地一五八・八三坪は訴外横田桂一の、西側に接する同番一宅地七三〇・二九坪は訴外田坂改三の、南側に接する同所四丁目一五〇八番一及び二宅地一一七坪及び一〇五坪はいずれも訴外北村吉元の、南側に接する同所四丁目一五一〇番四宅地八五・〇四坪及び本件(一)土地は被告らのそれぞれ所有地であり、原告所有地は周囲を他人の土地に囲繞されて公道に接しない袋地である。

(二) しかも原告所有地は益子所有地とは高さ一ないし二メートルの大谷石積みの石垣で、横田所有地とは一部レンガ積み、一部大谷石積みの高さ約三メートルの石垣で、田坂所有地とは高さ三ないし四メートルに達する急崖で一部石垣、一部土面露出状態で、一五一〇番四の宅地とは高さ約四メートルの間知石積みの石垣で、それぞれ境界を接しており、しかも右各隣接地には相当以前から家屋が建築されており、原告所有地は本件(一)土地以外の隣接地との通行は不可能である。

(三) したがって、原告所有地は本件(一)土地のみが唯一の通路であり、民法二一○条一項もしくは二項に基づき、原告は本件(一)土地につき通行権を有する。

2  借地権

高橋快衛は、昭和一六年四月一日ころ、被告らの先代で、本件(一)、(二)土地のもとの所有者である訴外久保井銀次郎から、本件(一)、(二)土地を賃借していたところ、原告は、原告所有地取得時に、高橋快衛から、本件(一)、(二)土地の賃借権を金三〇万円で譲受け、その旨を被告らに通告したが、被告らはなんら異議を述べず、原告の通行を容認していたもので、賃借権の譲渡を承諾したものである。

3  占有権

原告は、原告所有地取得以来、六年間以上、本件(一)、(二)土地及び本件物件を占有、使用してきたもので、占有権を有している。

4  通行地役権

高橋快衛はもともと地元の農家で、原告に原告所有地を売却する二〇年以上前から、本件(一)土地を通路として使用しており、被告らもこれを承諾し、本件(一)土地は充分踏み固められたうえ、砂利が敷かれ、左右双方には排水溝が設けられ、一見して、通路であることが明確であり、右通行は継続かつ表現されたもので、右高橋及び原告は本件(一)土地を平穏かつ公然に通行しており、二〇年の経過により、原告は本件(一)土地の通行地役権を時効取得したので、原告は右取得時効を援用する。

五  仮りに前項の主張が認められないとしても、被告らが原告の本件(一)土地の通行を妨害することは、次のとおり、権利の濫用となり、許されない。

1  本件(一)土地は間口三、七四メートル、奥行一二、九メートルの細長く、坂状傾斜した土地で、建物の建築には不適で、専ら通路としてしか利用できないにもかかわらず、単に原告に対する嫌がらせや生活妨害のみの意思によってバリケードを構築したものである。

2  被告らは東京都大田区で有数の大地主で、本件土地を利用する必要性は全くないのに反して、原告は原告所有地に住居を有し、本件(一)土地が公道への唯一の通路であり、本件(一)土地の通行は原告の日常生活にとって必要かつ不可欠である。

3  被告らは、本件紛争発生後、調停及び訴訟において不誠実な態度で紛争解決の意思は全くない。

六  よって原告は被告らに対し、

1  第四項の各権利に基づき、本件債務名義による本件(一)、(二)土地及び本件物件に対する強制執行を排除することを求める。

2  第四項の各権利もしくは第五項に基づき、被告らが原告の本件(一)土地の通行権を確認し、原告の通行の妨害禁止を求める。

(原告の請求原因に対する被告らの認否及び主張)

一  原告の請求原因第一項は認める。但し、原告が原告所有地に居宅を建築したのは昭和四一年九月である。

二  同第二項のうち、原告が、原告所有地取得以来、本件(一)土地を通行し、本件物件を使用していたことは否認するが、その余は認める。

三  同第三項は認める。

四  同第四項は争い、

一  同項1(一)は認め、(二)は否認し、(三)は争う。原告所有地は被告ら所有の一五一〇番四の宅地に設けてある私道に通じており、右私道を経て東側公道に出ることができ、また多少の高低差があるが北村所有地に設けてある私道にも通じており、この私道からも南側公道に出ることができる。

なお、仮りに原告所有地が、法律上、袋地であるとしても、前所有者である高橋快衛が原告所有地を所有していたときは、原告所有地と一五一〇番五の宅地とは一筆の土地として所有されていたものを、右両土地に分筆のうえ、原告が原告所有地を買受けた結果、原告所有地が袋地となったもので、原告は、民法二一三条二項により、一五一〇番五の宅地を通行して公道に出ることができたところ、その後、益子昇が一五一〇番五の宅地を買受けたが、益子は民法二一三条二項の土地所有者の承継人として右宅地を原告が通行することを容認しなければならないものであり、また原告は高橋快衛が益子昇に右宅地を売却するまでに高橋に通路を開設することを要求できる時間的余裕があったにもかかわらず、これをなさないで本件(一)土地を通行することを認めることは、正義、公平の観念からみて許されるものではない。2 同項2のうち、高橋快衛が久保井銀次郎から本件(一)、(二)土地を借受けたことは認めるが、原告に右借地権を譲渡したことは知らない、その余は否認する。被告らは、昭和三五年八月九日、高橋快衛に対し、賃貸借契約を解除した。

3 同項3は否認する。原告が本件(一)、(二)土地及び本件物件の占有を始めたのは、昭和四一年七月、仮処分決定によるもので、それ以前に本件(一)土地を占有したことはない。

4 同項4は否認する。高橋快衛は、本件(一)、(二)土地を賃借していたもので、通行地役権を取得したことはなく、右高橋は本件(一)、(二)土地に物を置いたり、野菜を植えていたもので、通路としては使用されておらず、原告も、原告所有地買受当時から居宅を建築した昭和四一年九月までの間は、原告所有地を空地として放置していたもので、本件(一)土地を通行の用に供することはなかった。

本件(一)土地は公道と同一平面上にあり、原告所有地は山の上の土地で、本件(一)土地との境界は崖状で石が積んであり、とても通路として使用することはできない状態であったが、原告が原告所有地に居宅を建築するころ、右境界付近に土砂を埋めてから通路として使用できるようになったもので、それ以前は益子所有地のみが通路として通行可能な状況であった。

五 同第五項は争い、

1  同項1は否認する。本件(一)、(二)土地は一体として利用すれば、充分、宅地として利用することができ、坂状傾斜地になったのは原告が原告所有地の通路として利用するために土砂を埋めたからであり、坂状傾斜を除去すれば立派な宅地となる。またバリケードを構築したのは隣地からの侵害を防ぐためにしたもので、正当な権利行使である。

2  原告が原告所有地で居宅の新築工事に着手した昭和四一年九月の時点では、被告らは本件(一)、(二)土地につき、訴外金文培を相手方として仮処分決定を得ており、しかも高橋快衛を被告とした土地明渡訴訟の勝訴判決が確定し、その強制執行をなさんとしているうちに、原告は虚偽の上申書などを作成するなどして被告らの右強制執行を停止し、更に被告らを相手方として本件(一)土地につき原告の通行権を認める旨の仮処分決定を得てその執行をしたもので、原告は本件第三者異議訴訟提起に伴う強制執行停止手続を悪用して、本件(一)土地を私道として利用し、更に立派な舗装道路を作出したのであり、原告にこそ権利の濫用が適用されるべきである。

(原告の反論)

一  原告所有地が袋地でないとの主張に対して

1  被告ら主張の各私道は原告所有地まで達しておらず、かつ益子所有地から公道に出ることは、事実上、不可能である。

2  民法二一三条二項は当事者の特定承継人にまで適用されるべきではなく、譲渡の直接の当事者間にのみ適用されるべきである。

二  通行地役権について

原告が原告所有地を買受ける際に、本件(一)土地が公道への通路であるとの説明を受け、かつ公道への階段ができて、通路となっている状況を現認していた。

三  原告は被告らが金文培に対し仮処分決定を得ていたことは知らなかった。

(被告らの昭和五二年(ワ)第七〇八号事件の請求原因)

一  本件(一)、(二)土地は被告浜子の実父である久保井銀次郎が所有していたが、被告らは、昭和二九年五月一日、右銀次郎から、本件(一)土地を、持分各二分の一あて贈与を受け、昭和三〇年五月四日、所有権移転登記手続をなし、更に、被告浜子は、同年六月五日、右銀次郎から、同人の死亡と同時に遺贈を受け、同年一一月一一日、所有権移転登記手続をなした。

二  原告は、昭和四一年八月ころから、本件(一)、(二)土地及び本件物件を占有している。

三  本件(一)土地の賃料相当額は、昭和五二年二月当時は一ケ月金六六七四円であり、昭和五四年一月当時は一ケ月金七六二八円であり、本件(二)土地の同額は、昭和五二年二月当時は一ケ月金四一六五円であり、昭和五四年一月当時は一ケ月金四七六〇円である。

四  よって、原告に対し、

1  被告らは本件(一)土地を明渡し、訴状送達の翌日である昭和五二年二月五日から昭和五三年一二月三一日まで一ケ月金六六七四円の、昭和五四年一月一日から右明渡済みまで一ケ月金七六二八円の各割合による賃料相当損害金の支払を求める。

2  被告浜子は本件(二)土地を明渡し、訴状送達の翌日である昭和五二年二月五日から昭和五三年一二月三一日まで一ケ月金四一六五円の、昭和五四年一月一日から右明渡済みまで一ケ月金四七六〇円の各割合による賃料相当損害金の支払を求める。

3  被告らは本件物件の明渡を求める。

(被告らの請求原因に対する原告の認否)

請求原因第一、二項は認め、第三項は否認する。

(原告の抗弁、主張及び被告らの答弁)

原告の前記各事件の請求原因、被告らの右請求原因に対する認否及び主張、原告の反論で主張したとおりである。

第三 証拠(省略)

別紙

物件目録

(一) 東京都大田区南馬込四丁目一五一〇番一

宅地  六二・九四平方メートル

但し別紙図面中イ、ロ、ハ、ニ、イを順次直線で結んだ線で囲まれた土地部分

(二) 東京都大田区南馬込四丁目一五一二番二

宅地  三九・三〇平方メートル

但し別紙図面中ハ、ニ、ホ、ヘ、ハを順次直線で結んだ線で囲まれた土地部分

(三) 右(一)及び(二)の土地に跨る

家屋番号 同町一五一二番の二

車庫  コンクリートブロック造陸屋根平家建

三二・〇三平方メートル

但し現況は防空壕の如き形状で、一部取壊されたもの。

東京都大田区馬込町西一丁目

実測図

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